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逃げる太陽 ~俺は名無しの何でも屋!~

逃げる太陽 ~俺は名無しの何でも屋!~

一年で一番長い日 49、50

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prisonerNo.6は焦った。PCがフリーズしてしまったのだ。楽天ページが開けなくなったばかりか、幾つか開いていた窓が正常に閉じられない。諦めて<スタート>から再起動をかければ「○○がビジーである」と文句を言われ、終了もシャットダウンもままならない。それでは、と<Ctrl>+<Alt>+<Delete>を押しても固まったまま。

最終奥義・電源OFFを行いながら、prisonerNo.6は考えていた。怪しい台風情報の動画などを見たからだろうか。それとも、<村>のNo.2の陰謀だろうか。No.1は誰なんだ? prisonerNo.6は答えのない疑問の袋小路に迷い込んだ。

Who is No.1?
You are No.6.・・・

俺は番号じゃない! 俺は自由な人間だ!

prisonerNo.6は危うく錯乱しかけた。

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「あの夜のあなたは、とてもご機嫌だったね」
自ら葵であると名乗った青年はくすっと笑った。
「父と言い争っていたらいきなり飛び込んで来たんで、何かと思ったよ」

俺は言葉に詰まった。
「悪い。全然覚えていないんだ・・」

「そうみたいだね」
夏樹をソファに横たえてやりながら、葵は答えた。うさぎの絵のプリントされたケットをかけやっている。冷房のきいた部屋では当然だ。

「でも覚えてなくて良かったかも。すごく陰険で険悪な雰囲気だったから」
その言葉を聞いて、俺はぶるっとした。あの<笑い仮面>高山・父と目の前の青年が、俺という他人を挟んで陰険漫才。怖い。怖過ぎる。

にここにこに、にこにこにこ。
にっこり、にこにこ。にっこり、にこにこ。

そして飛び交う険悪な会話。酔っぱらった俺だけが何も分からずに、にへにへにへ。
お、覚えてなくて良かったかも。しかし、怖い親子ゲンカだ・・・

「そんな状態なのに、何軒も梯子したのは何故なんだ? 帰ればいいじゃないか」

俺のもっともな問いに、葵はひょいと肩をすくめて見せた。
「父は俺から聞き出したいことがあったし、俺も確認したいことがあったからね」

「高山氏が君に聞きたいことって、やっぱり君の兄さんのこと?」
俺は訊ねた。

「君の双子の兄さん、芙蓉くん。五年前に行方知れずになったと聞いてるけど、君、ひと月ほど前、<サンフィッシュ>っていう店で彼と会わなかったか?」

「会ったよ」
あっさりと葵は肯定した。
「本当に久しぶりに。偶然だったんだ」

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偶然は結局必然、という言葉もあるけどね。葵はそう続けた。


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「俺と芙蓉は一卵性双生児だって、知ってるよね」
葵は言った。

「どう思う? いつも一緒だった人間が突然いなくなるって。別に、魂の半身だとかそういうことは言わない。俺と芙蓉は別の人間だ。でも、生まれた時から、いや、母の胎内にいた時から一緒だったんだ。それなのに何も言わずにいきなり・・・」

葵は眠る夏樹の髪を撫でた。何度も、何度も、愛しそうに。

「その兄弟に会った。五年ぶりに。女の格好をしてたからびっくりしたけど、でもすぐに分かったんだ、芙蓉だって」

「芙蓉くんはなぜ家を出たのか、理由を聞いてみたのか?」
俺の問いに葵は髪を撫でる手を止めた。

「父のせいだったんだ。父が芙蓉を追い出した。俺たち兄弟を、引き裂いたんだ・・・」

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「父は芙蓉に言ったらしいよ。変態は家を出て行けって。弟に変態が感染ったらどうするんだって。そんなもの、感染らないよ、病気じゃあるまいし。俺は女装なんて面倒なこと、したいと思わないもの」

「変態って、その・・・」
俺は言葉を濁した。葵が五年ぶりに芙蓉に再会した時、彼は女の格好をしていた。ということは--

「ニューハーフ、っていうのとはちょっと違うよ」
俺の考えを読んだように葵は言った。

「女になりたいわけじゃない。性的嗜好はノーマルだ。ヘテロ、ノンケ。つまり、恋愛の対象は女性なんだ。芙蓉の場合、衣装倒錯というのかな。男なんだけど女の格好がしたかった。ただ、それだけ」

「・・・」
それだけって。俺は何も言うことが出来なかった。えーと、えーと、ののかが男の子の格好がしたいと言ったらどうすればいいんだ? あー・・・

「気持ち悪い? 芙蓉のこと」
俺の沈黙をどう取ったのか、葵がまっすぐに俺の顔を見つめていた。

「え? いや。そうじゃなくて。俺の娘が男の子の格好をしたがったらどうしようって考えて。っていうか、それくらいで未成年の子供に家を出て行けっていうものなのかとか、その」

しどろもどろになりながら、俺はなんとか答えた。

「俺の感想でいえば、似合っていれば、別に。ストッキングからスネ毛が飛び出してたら嫌だけど。俺の知り合いにはオカマもいるし。こいつがまたきったないオカマでさ。鬼瓦みたいな顔してて、化粧した方がぶっ細工なの。最初はゲッと思ったけど、でもいいヤツだし。迫られたらそりゃ鳥肌ものだけど、そうでなけりゃ、別に個人の趣味というか」

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葵はまだ俺を見つめている。

「そりゃ、親としてびっくりすると思うよ。びっくりして、酷い言葉も言ってしまうかもしれない。だけど、当時まだ十六歳だろ? 君が兄さんの、その、そういう趣味に気づいてなかったってことは、彼はちゃんとTPOを考えてたんだと思うんだ。出て行けって言って、本当に追い出すほどのことなのかって、それで」

「あなた、いい父親なんだね」
葵は言った。声がやさしかった。

「父は芙蓉に言ったそうだ。お前がいなくてもちゃんとスペアが居る。双子で本当に良かった、ってね」

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